区役所や自治体の基幹システムは、一日でも止まれば住民の暮らしに直結します。だからこそ、インフラの作り方には民間とは別物の緊張感があります。
私は元SIerとして、新宿区のプライベートクラウド基盤を構築する案件を担当しました。この記事では、公開されている情報の範囲で、その現場で何を大事に作ったのかを書きます。
この記事でわかること
- 自治体システムのインフラが、民間と違って何を最優先で設計するのか
- NEC公式プレスで公表された、新宿区プライベートクラウド基盤の中身
- 多層防御・SDN自動隔離・ラック約40%削減という、現場の設計思想
自治体システムのインフラは「止めない・漏らさない」が全ての前提
結論から言うと、自治体システムのインフラは可用性と情報セキュリティを最優先に設計します。住民サービスと個人情報を扱うため、止まる・漏れるが許されないからです。
民間のシステムなら、多少の停止や手戻りは運用でカバーできる場面もあります。しかし自治体は、窓口業務が止まれば住民が困り、情報が漏れれば信頼を失います。
だから設計の順番が変わります。まず守りを固め、その上に利便性を乗せる。この順序を崩さないことが、自治体インフラの出発点です。
新宿区のプライベートクラウド基盤を、私は担当した
私が担当したのは、新宿区のプライベートクラウド基盤を構築する案件です。この事実はNEC公式プレスで公表されており、書ける範囲はその公開情報までです。
NECは2018年9月18日に、NEC、新宿区に情報セキュリティ強化と利便性を両立したプライベートクラウド基盤を構築というプレスリリースを公表しました。基盤はNEC Cloud Systemを活用し、2018年4月から本格稼働しています。
発表のタイトルは、情報セキュリティ強化と利便性の両立です。この二つを同時に満たすことが、自治体インフラの一番難しいところだと私は思います。
セキュリティは「多層防御」と「SDNによる自動隔離」で作る
結論として、守りの肝は多層防御と、SDNによる自動隔離です。未知のサイバー攻撃を前提に、入口だけでなく内部でも食い止める発想です。
プレスで公表された仕組みの一つが、SDN(Software-Defined Networking)による自動防御です。感染した仮想デスクトップの通信を自動で遮断し、被害を局所化します。
多層防御ではトレンドマイクロの製品を用い、同社と連携した支援体制を組んでいます。一つの関門を抜かれても、次の層で止める構えです。
- 顔認証による本人確認(業務プロセスに影響を与えない方式)
- ファイルの自動暗号化(万一の持ち出しに備える方式)
- 24時間365日の常時監視(NECが実施)
私の実務感覚でも、守りは点ではなく層で考えるのが基本です。一箇所の強化より、抜かれた後にどう止めるかの設計が効きます。
多層防御やゼロトラストの実務的な勘所は、別記事に具体的にまとめています。EDRやファイアウォール設計まで、インフラ屋の視点で書いた記事が→ インフラ屋の「実戦セキュリティ」です。
サーバーラックを約40%削減した、集約と仮想化の設計
結論から言うと、この基盤では機器の集約でサーバーラックを約40%削減しました。仮想化で物理機器を減らし、運用とコストの負担を軽くする狙いです。
プライベートクラウド化の価値は、セキュリティだけではありません。リソースを集約し、増減に柔軟に対応できる土台をつくることにもあります。
ラックが減れば、電力も設置スペースも監視対象も減ります。守る範囲が小さく整うことは、セキュリティ面でも素直に効いてきます。
補足です。本文の数値はNEC公式プレス(2018年9月18日)の公表値です。削減率などは当時の発表時点のもので、現在の構成を示すものではありません。
24時間365日の監視と、将来のマルチクラウドという発想
結論として、作って終わりではなく、24時間365日の監視まで含めて一つの基盤です。攻撃は時間を選ばないので、見張り続ける体制が要ります。
プレスでは、将来的にパブリッククラウドをバックアップサイトとして使う構想にも触れています。災害時の事業継続性を高める、マルチクラウド運用の発想です。
自治体インフラは、平常時だけでなく有事をどう乗り切るかまで設計します。止めない前提を、災害や障害の先まで延ばしていく考え方です。
現場のリアル:特別貢献賞をもらって学んだこと
この案件で、私は特別貢献賞を受賞しました。賞状は今も手元にありますが、誇るより、そこで学んだことのほうが大きいと感じています。
私が特別貢献賞を受けた理由は、自分なりに次の三つの観点だったと受け止めています。いずれも派手な手柄ではなく、現場を止めないための地道な働きです。
- システム全体を知る者として、移行に向けた安全な進め方や、現場が重視している観点・注意点をアドバイスできたこと。
- お客様とのパイプを生かし、トラブルを未然に防いだり、トラブル時の初動のお客様対応をしっかり行い、CS(顧客満足)の維持・向上に貢献できたこと。
- PM視点を生かし、スケジュールなどを積極的に提案し、予定通りサービスインさせられたこと。
学びの一つは、自治体の仕事は派手さより確実さが評価されるということです。細部を丁寧に詰める地道な作業こそが、住民の安心を支えています。
もう一つは、守りと使いやすさは対立させずに両立させられるということです。難しいからこそ、そこに価値が生まれるのだと私は考えています。
そして何より得られたのは、日本の公共社会に貢献できたという誇りです。私が手がけた基盤が、新宿区の住民の暮らしを静かに支えていると思えることは、今も私の仕事の支えになっています。
これは私見ですが、こうした一次体験は、転職市場でそのまま強みになります。公開できる実績の裏付けは、言葉以上に信頼を運んでくれます。
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この記事は、NEC公式プレスリリース(2018年9月18日)で公開された情報の範囲で書いています。守秘義務のため、非公開の作業内容や契約の詳細には触れていません。また、特定の企業への発注や契約を勧めるものではありません。

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